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第二章 第一話 “誰のKPIか”で、商いの質は決まる

第2章 第1話

昔、僕は「販路が広がればブランドは育つ」と思っていた。
卸しの取引先が増えれば、売上が安定する。
百貨店に呼ばれれば、知名度が上がる。
そんなふうに信じていた時期が、たしかにあった。

でも実際に木宮商店という場を運営していくなかで、
目の前で摩耗していく若手ブランドたちの姿を何度も見てきた。

卸し先では、売れ筋ばかりが優先され、在庫のリスクはブランド側へ。
百貨店の若手支援POP UPでは、表面的な実績だけが蓄積され、
肝心の「誰が買ったのか」「なぜ手に取られたのか」が見えないまま終わっていく。

その先に残るのは、「売れなかった」という感覚と、「また頑張らないといけない」という焦り。

なぜ、こんなに頑張っている人たちが疲弊していくのだろう。

その答えはとてもシンプルだった。
**「KPI(目標指標)の主語が、ブランドではなく、誰か他人になっている」**からだ。

若手POP UPを仕掛ける側は、実績を作りたい。
新しい卸し先は、目新しいブランドを“ネタ”として扱いたい。
誰もが、「自分の数字」を達成するためにブランドを使う。
もちろん、全ての取引がそうとは言わない。
けれど、「誰のための企画なのか」が不明瞭なまま、商いが組まれているケースが、あまりにも多い。

でも、ブランド側もまた、「断る理由がない」という理由で参加してしまうことがある。
「誘ってもらえたこと」が実績のように感じる瞬間もある。
“もしかしたら何か起こるかもしれない”という期待が、断れなくさせる。
その気持ちは、痛いほどよくわかる。

だから、誰かを批判したいわけじゃない。
ただ、木宮商店として**「それでも、自分たちのKPIは何なのか」**を明確にしておきたい。

僕たちが大切にしているのは、「販路」よりも「関係性」。
「短期売上」よりも、「長期利益」。
そして何より、「実績」よりも「信頼」。

木宮商店に商品を卸すというのは、
ただ“物を預けて売ってもらう”ということではない。
それは、**「物語の共有」であり、「思想の共振」であり、「関係性の編集」**だと思っている。

卸し価格での取引であっても、
• お客様との対話
• 試着と再訪
• 会期中のライブ・フィードバック
• 来場者のリアルな反応
• SNSの動線設計や、文脈を持った発信
…その全てが、ブランドの未来に向かって“根を張っていく”営みになる。

だから、木宮商店に卸すということは、
「長期利益から逆算された打ち手」であり、
“ただ商品を売るため”ではなく、“ブランドを育てるため”の投資だと考えている。

商いの手法は、これからも変わっていく。
だけど「誰のKPIで動くのか」という問いは、ずっと変わらない。

誰かの数字のために消耗していくのではなく、
自分たちの理想の姿から逆算して、手を打っていく。
そんなブランドのために、木宮商店はありたいと思っている。

●編集後記

この回では、ちょっと刺激のある話題を取り上げました。
「販路拡大のための卸し」や「若手向けPOP UP」などは、
一見チャンスに見えるけれど、その構造をよく見ると、
“KPIの主語”がブランド以外の誰かになっていることが多いと感じます。

僕自身も昔は、「たくさん取引先があるほうがすごい」と思っていました。
でも現場で見えてきたのは、「販路が増えてもファンが増えない」ブランドの姿でした。

商いの成功とは、「誰のKPIを満たせたか」でなく、
「誰とどんな関係性を築けたか」で測るものかもしれません。

木宮商店は、そんな価値基準でこれからも動いていきたいと思っています。
今日も、地味で、でも確かな、関係性のひとつを育てていきます。