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第二章 第四話 商品選定の美意識:「売れる」ではなく「語れる」ものを

展示会で商品を選ぶとき、
僕はまず「これは売れるだろうか」とは考えない。

最初に考えるのは、

「この服について、十分に語れるだろうか」

ということだ。

もちろん、商売である以上、売れることは大切だ。
利益が出なければ、お店は続けられない。

だけど、「売れるから」という理由だけで仕入れた服は、
不思議なことに、接客にも迷いが生まれる。

どこか言葉が薄くなる。

なぜなら、自分自身がその服に惚れきれていないからだ。

木宮商店では、
デザインだけを見て仕入れることは、ほとんどない。

デザイナーが何を考えていたのか。

なぜその素材を選んだのか。

その服は、どんな景色を見せてくれるのか。

そんな背景を知れば知るほど、
洋服は「商品」ではなく、「物語」へと変わっていく。

僕が仕入れているのは、
服ではなく、その物語なのかもしれない。

時々、
「これは木宮商店では売れないかもしれない」と思う服がある。

価格が高い。
着こなしが難しい。
人を選ぶ。

それでも仕入れることがある。

なぜなら、
その一着が、この店の世界観を前に進めてくれると思えるからだ。

すべての商品が売れ筋で埋め尽くされた店は、
効率はいいかもしれない。

でも、少しだけ退屈でもある。

一着の挑戦的な服が、
店全体の空気を変えることがある。

「あのお店には、こんな服もあるんだ。」

そんな驚きが、
店の輪郭をつくっていく。

反対に、
どれだけ売れそうでも、
木宮商店では扱わない服もある。

品質の問題ではない。

価格の問題でもない。

その服を前にしたとき、
自分の口から自然と言葉が出てこない。

「なぜ、この服なのか。」

その問いに答えられないものは、
たとえ売れたとしても、長く店には残らない。

木宮商店に並ぶ服は、
僕自身が「語りたい」と思えたものだけだ。

だからこそ、 木宮商店に並ぶ「語れる服」をお客様に押し売りすることはない。

私たちの店は、衝動買いを誘う場所ではなく、 「いつかの特別な日のため」に通うお店でありたいと思っているからだ。

服が持つ物語とお客様の人生が交差する瞬間を、 じっくりと待つ。

よく考えてみると、
お客様もまた、服を買っているだけではない。

その服を着て出かける未来を買っている。

誰かと会う時間を買っている。

新しい自分との出会いを買っている。

だからこそ、
服には物語が必要なのだと思う。

その物語を最初に信じる人が、
店主でありたい。

僕が信じられないものを、
お客様に勧めることはできない。

「売れるものを集める店」と、
「語れるものを集める店」。

その違いは、とても小さいようでいて、
積み重ねるほど大きな差になっていく。

語れる商品は、
接客が変わる。

接客が変わると、
お客様との会話が変わる。

会話が変わると、
店に流れる時間そのものが変わる。

木宮商店は、
そんな時間をつくるために商品を選んでいる。

だから今日も、
展示会では数字だけでなく、
自分の心が少し震えた一着を探している。

●編集後記

この章を書きながら思ったのは、
「商品選定」とは、自分自身の美意識を選び続ける行為なのだということです。

もちろん、商売なので失敗もあります。

「これはきっと届く」と思った服が、まったく動かないこともあります。

でも、その失敗は無駄ではありません。

なぜなら、売れなかった理由を考え続けることで、
自分の美意識も、お客様への理解も少しずつ磨かれていくからです。

売れるものを追いかけることは、明日からでもできます。

でも、語れるものを探し続けることは、
時間をかけてしか身につかない。

木宮商店は、
これからも「何を売るか」ではなく、
「なぜそれを売るのか」を問い続ける店でありたいと思っています。